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【2025年最新】
ITサービスマネジメント完全ガイド〜企業のIT価値最大化とコスト最適化を実現する戦略〜

ITサービスマネジメント(ITSM)は、IT部門がビジネス価値を創出し、競争力を高める上で現代の企業にとって不可欠な要素です。ITSMの導入と運用を通じて、企業はITサービスを効率的に管理し、コストを削減し、リスクを軽減し、顧客満足度を向上させることができます。特に、DXの時代においては、ITSMは企業が変化に迅速に対応し、イノベーションを推進するための重要なツールとなります。
本コラムでは、ITサービスマネジメントの基礎知識をご紹介した上で、ITSMと密接に関連するITIL®の全体像や、ITSM導入のステップ、成功事例などを網羅的に解説します。

目次構成

  1. ITサービスマネジメントの基本と重要性:ビジネス価値を高めるITの戦略的活用法
    • (1)ITサービスマネジメントとは:定義と基本概念
    • (2)ITサービスマネジメントが注目される背景と市場動向
    • (3)企業が直面するITサービス管理の課題と解決の方向性
  2. ITサービスマネジメントフレームワーク:ITIL®とその進化
    • (1)ITIL 4の全体像と主要コンセプト
    • (2)ITIL®の「3つのP」とは:People、Process、Productの最適化
    • (3)ITサービスマネジメントの国際規格 ISO/IEC 20000
  3. ITサービスマネジメントの主要プロセスと実践方法
    • (1)サービスストラテジー:ITサービスのビジネス価値設計
    • (2)サービスデザイン:高品質なITサービスの設計と計画
    • (3)サービストランジション:ITサービスの円滑な移行と変更管理
    • (4)サービスオペレーション:日常的なITサービス運用の効率化
    • (5)継続的サービス改善:ITサービスの質と効率の継続的向上
  4. DX時代のITサービスマネジメント最新動向
    • (1)クラウドサービス管理とマルチクラウド環境におけるITSM
    • (2)AI・自動化によるITサービスマネジメントの進化
    • (3)DevOpsとITサービスマネジメントの融合
  5. 成功するITサービスマネジメント導入の実践ステップ
    • (1)ITサービスマネジメント導入前の準備と計画立案
    • (2)ITサービスマネジメント導入時の主要成功要因
    • (3)ITサービスマネジメントの定着化と継続的改善
  6. ITサービスマネジメント導入の成功事例と効果
    • (1)業種別ITサービスマネジメント導入事例
    • (2)ITサービスマネジメントの定量的効果と投資対効果
  7. まとめ:ITサービスマネジメントの未来と企業が取るべきアクション
    • (1)ITサービスマネジメントの今後の展望と準備すべきこと
    • (2)今すぐできるITサービスマネジメント改善のための第一歩

1.ITサービスマネジメントの基本と重要性:
ビジネス価値を高めるITの戦略的活用法

(1)ITサービスマネジメントとは:定義と基本概念

ITサービスマネジメント(ITSM)は、顧客のニーズに合致した適切なITサービスの設計、提供、運用、改善を体系的に管理するプロセスです。
ITSMの目的は、ビジネス目標に合わせて、高効率かつ高品質なITサービスを提供することにあります。ITIL®(Information Technology Infrastructure Library)をはじめとするフレームワークを活用し、ITサービスの一貫性と信頼性を確保します。

・ITサービスマネジメントの歴史と発展

ITSMの概念は1980年代後半に形成され始め、1989年に英国政府がITサービスの品質向上を目的に刊行したITIL®(Information Technology Infrastructure Library)を起源とします。最初のITIL 1は、40冊を超える書籍群として、ITを有効活用している先進企業の調査結果をまとめたものでした。
その後、ITIL®は進化を続け、現在ではITIL 4が最新バージョンであり、アジャイルやDevOpsなどの現代的な手法を統合しています。

・ITSM導入による企業価値向上の仕組み

ITSMの導入は、企業価値の向上に大きく貢献します。具体的には、以下の効果が期待できます。

  • ビジネスとITの連携強化: ITSMは、ITサービスをビジネス目標に合わせて最適化し、ビジネス戦略の達成を支援します。
  • 効率性の向上: プロセスの標準化と自動化によりIT運用効率が向上し、リソースをより戦略的な活動に集中させることができます。例えば、ITSMツールを利用することで、日常のIT関連業務が自動化され、手動で行う作業量が大幅に減少します。
  • コスト削減: IT資産の最適化、インシデントの削減および効率的なリソース配分により、ITコストを削減します。
  • リスクの軽減: 変更管理、インシデント管理および問題管理のプロセスを改善することで、システム障害やセキュリティインシデントのリスクを低減します。
  • 顧客満足度の向上: 迅速な問題解決、高品質なサービス提供、顧客中心のアプローチなどにより、顧客満足度を向上させます。

(2)ITサービスマネジメントが注目される背景と市場動向

ITSMが注目される背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、リモートワークの普及、クラウドサービスの拡大があります。これらの要因により、企業が迅速かつ効率的にITサービスを提供する必要性が高まっています。

FORTUNE BUSINESS INSIGHTSでは、ITSM市場規模を次のように予測しています。
「ITSMの市場規模は拡大しており、2024年に1,191億米ドルだった市場規模は、2032年には3,678億米ドルに達すると見込まれており、2025年から2032年にかけての年平均成長率は15.3%と予測されています。」
出典:FORTUNE BUSINESS INSIGHTS

・DX時代におけるITSMの重要性と役割

DXが加速する現代において、ITSMは企業が競争優位性を確立し、ビジネス価値を創出するための重要な要素となっています。特にクラウドベースのITSMソリューションは、リモートワークや分散型チームの実現を支援し、ビジネスの継続性を高めます。
また、AIや機械学習などの新しいテクノロジーをITSMに統合することで、より高度な自動化や予測分析、迅速な意思決定が可能になります。

・リモートワーク定着がもたらすITSM需要の拡大

新型コロナウイルスのパンデミック以降、リモートワークが普及し、ITSMの重要性がさらに高まっています。リモートワーク環境では、従業員がどこからでも安全かつ効率的にITサービスにアクセスできる必要がありますが、クラウドベースのITSMソリューションはそのニーズを満たすことが可能です。

(3)企業が直面するITサービス管理の課題と解決の方向性

ITSMのニーズが拡大する中で企業は課題にも直面しており、適切に対処する必要があります。

・運用ミスの多発と属人化の問題

ITサービスの運用において属人化が発生していると、特定の担当者しか業務内容を理解していない状態になり、担当者が不在の場合に対応が滞る可能性があります。運用が標準化されていないために人為的なミスも発生しやすく、サービス品質の低下、効率の悪化、リスクの増大につながります。
こうした事態を避けるためには、Excel などのツールを用いた個別最適化されたITサービスマネジメントからの脱却が必要です。ITSMツールを活用して、業務プロセスの標準化やナレッジの共有、自動化を進めることで、属人化を解消し、運用ミスを削減することができます。

・システム障害増加とサービス品質低下のリスク

システム障害はビジネスの継続性を脅かし、顧客からの信頼を損ないかねません。またサービス品質の低下は、顧客満足度の低下や収益の減少につながります。
システム障害発生時の対応を迅速に行うためには、障害発生時用のワークフローの策定と、平時における訓練が必須です。
複数のクラウドサービスを統合して運用することで全システムを一括管理でき、運用作業対応件数やインシデント発行件数の削減が可能になります。

・ITコスト増大と最適化の必要性

ITコストの増大は多くの企業にとって深刻な課題であり、クラウドサービスやアウトソーシング契約の最適化を通じて、ITコスト削減や品質向上を図る必要があります。
例えば、夜間・休日などの特定時間帯の運用をアウトソーシングし、作業量ベースでの料金体系で契約することで運用コストを低減できます。

2.ITサービスマネジメントフレームワーク:
ITIL®とその進化

(1)ITIL 4の全体像と主要コンセプト

ITIL 4は、ITサービスマネジメント(ITSM)の最新フレームワークで、2019年にリリースされました。従来のプロセス中心のアプローチから、価値創造を重視した柔軟なフレームワークへと進化しています。
ITIL 4の中心には「サービスバリューシステム(SVS)」があり、組織全体の活動を統合して価値を創出する仕組みを提供します。また、ITIL v3の「サービスライフサイクル」に代わり、「サービスバリューチェーン」が導入され、6つの主要活動(プラン、改善、関与、設計/移行、取得/構築、提供/サポート)を通じて価値を創出します。

・サービスバリューシステム(SVS)の構成要素

ITIL 4のサービスバリューシステム(SVS)は以下の5つの要素で構成されています。

  • 指針となる原則(Guiding Principles): 組織の状況に関係なく、従業員が柔軟に作業できるようにするために組織全体で共有されるガイドラインであり、意思決定の基盤となります。
  • ガバナンス(Governance): 組織の目標、方針、意思決定を支える枠組みを提供し、ビジョンとサービス運営の整合性を確保します。
  • サービスバリューチェーン(Service Value Chain): SVSの中心的な要素であり、価値創造のプロセスを体系化しています。SVCは以下の6つの活動で構成されます。
    プラン(Plan):戦略やリソース計画の策定
    改善(Improve):継続的な改善活動の実行
    関与(Engage):ステークホルダーや顧客との連携構築
    設計/移行(Design & Transition):新サービスの設計と移行
    取得/構築(Obtain/Build):必要なリソースの取得または構築
    提供/サポート(Deliver & Support):サービスの提供とサポート
  • プラクティス(Practices): ITIL v3のプロセスに代わるものであり、組織の目標達成を支援するための能力や資源を指します。
  • 継続的改善(Continual Improvement): サービスの品質と効率を継続的に向上させるための取り組みです。サービス管理のあらゆるレベルに適用されます。

・4つの側面:組織と人、情報とテクノロジー、パートナーとサプライヤー、バリューストリームとプロセス

ITIL 4には、サービス管理を成功させるために考慮すべき4つの重要な側面があります。

  • 組織と人: この側面は、サービスマネジメントの基盤となる人的要素と組織構造に焦点を当てています。具体的には、適切なスキルと経験を持つチームの構築、明確な役割と責任の定義、組織文化の醸成と継続的な人材育成などが含まれます。
  • 情報とテクノロジー: サービス管理を支援する技術の活用(AI、機械学習、IoTなど)や、効果的な情報管理ポリシーの策定と実施サービスの管理など、サービス提供を支える技術的要素と情報管理に関係します。
  • パートナーとサプライヤー: サービスの設計、開発、提供、サポートに関わる外部組織との関係構築や、パートナーやサプライヤーとの協力体制の確立など、外部との関係性とその管理に焦点を当てています。
  • バリューストリームとプロセス: 価値創造のための一連のステップ(バリューストリーム)の定義や、効率的なプロセスの設計と実装など、価値創造のための活動とプロセスに関係します。

(2)ITIL®の「3つのP」とは:People、Process、Productの最適化

ITIL®の「3つのP」は、People(人材)、Process(プロセス)、Product(製品)の3つの要素を指し、これらを最適化することがITサービスマネジメントの成功には不可欠です。

・人材(People):ITサービス管理における人材育成と組織文化

ITサービス管理における人材育成と組織文化は、ITサービスの設計、提供、および改善において重要な役割を果たします。従業員のスキルと能力を継続的に開発し、共有価値観、チームワーク、および信頼を重視する健全な組織文化を育成する必要があります。

・プロセス(Process):効果的なITサービス提供のための業務フロー

効果的なITサービス提供のための業務フローは、ITサービス管理の中核をなすものです。ITサービスのライフサイクル全体を管理し、効率性、一貫性、および信頼性を向上させるためのプロセスを設計します。
例えばインシデント管理に関しては、サービスの中断や品質低下を最小限に抑えるために、インシデントを迅速に特定し、解決するためのプロセスを確立する必要があります。

・ツール(Product):ITサービス管理を支援するシステムとテクノロジー

ITサービス管理を支援するシステムとテクノロジーは、ITサービスの効率的な提供と管理を可能にするために不可欠です。
例えばITSMツールは、インシデント管理、問題管理、変更管理、構成管理などのITサービス管理プロセスを自動化および効率化するのに役立ちます。
またクラウドベースのソリューションの活用により、ITインフラストラクチャの柔軟性、スケーラビリティ、およびコスト効率を向上させることができます。

(3)ITサービスマネジメントの国際規格 ISO/IEC 20000

ISO/IEC 20000は、ITサービスマネジメント(ITSM)に関する国際規格です。この規格は、組織がITサービスを効率的、効果的に運営管理するための枠組みを提供しており、ビジネスニーズと国際的なベストプラクティスの両方に合致したITSMのプロセスを確保できるようになります。

・ISO/IEC 20000認証取得のメリットと取得プロセス

ISO/IEC 20000認証を取得することには、以下のように多くのメリットがあります。

  • サービス品質の向上: ITサービス管理プロセスを改善し、サービス品質を向上させることができます。
  • 顧客満足度の向上: 顧客の要求を満たす能力を実証し、顧客満足度を向上させることができます。
  • 効率的なサービス提供: サービス提供プロセスを合理化し、効率を向上させることができます。
  • 競争上の優位性: 信頼性と高品質なサービスを提供することで、競争上の優位性を獲得できます。

またISO/IEC 20000は、以下のプロセスを経て取得します。

  • リクエスト: 認証機関に提案をリクエストします。
  • 提案: 認証機関は、会社の情報に基づいて必要な日数を計算し、提案の価格を設定します。
  • ステージ1監査: 認証機関は、文書をレビューして、サービス管理システムがISO/IEC 20000の要件を満たしているかどうかを判断します。
  • ステージ2監査: 認証機関は、サービス管理システムが効果的に実装され、維持されているかどうかを判断するために、現場監査を実施します。
  • 認証の取得: 監査チームによって提示されたレポートの内容に対処し、認証機関に必要な証拠を満たしている場合、認証機関は意思決定評価レポートを発行し、最終的に認証の付与を承認します。
  • 監視訪問: 認証機関は、サービス管理システムが継続的に改善され、維持されていることを確認するために、定期的な監視訪問を実施します。

・ITIL®とISO/IEC 20000の関係性と相違点

ITIL®とISO/IEC 20000は相互補完的な関係であり、ITIL®はベストプラクティスとガイドラインを提供し、ISO/IEC 20000は要求事項と認証基準を定めています。両者を組み合わせることで、より包括的なITサービスマネジメントアプローチが可能となります。

一方で、両者には以下のように相違点もいくつかあります。

  • 性質と目的: ITIL®はベストプラクティスフレームワークで、「どのように」サービスを管理するかを示すものです。一方、ISO/IEC 20000は国際規格であり、「何を」達成すべきかの要求事項を規定します。
  • 認証: ITIL®は個人に対する認証を提供しますが、組織の認証は行いません。ISO/IEC 20000は、組織に対する認証を提供します。
  • 柔軟性: ITIL®はより柔軟で、組織は必要に応じて選択的に採用できます。反対に、ISO/IEC 20000はより厳格であり、認証取得にはすべての要求事項を満たす必要があります。
  • 範囲: ITIL®は主にITサービス組織向けである一方で、ISO/IEC 20000はITおよび非IT組織の両方に適用可能です。

3.ITサービスマネジメントの主要プロセスと実践方法

(1)サービスストラテジー:ITサービスのビジネス価値設計

サービスストラテジーはITサービスを提供する際の戦略のことです。
顧客のニーズを把握し、組織の強みを最大限に活用できる領域で、他組織が簡単に真似できないサービスを提供し、顧客に対して中長期的に新しい価値を提供できるかを検討します。

・サービスポートフォリオ管理とITサービスの投資対効果

サービスポートフォリオ管理は、複数サービスのサービス内容、投資状況、提供状況などを包括的に一元管理する手法です。それぞれのサービスが提供している価値やサービス同士の関連性を明確にし、サービスに対する投資と成果のバランスを可視化することが重要です。
ITサービスの投資対効果を把握するため、財務管理を行い、提供するサービスが適切かどうかを客観的に評価します。

・需要管理とキャパシティ計画の最適化

需要管理は、顧客やユーザーの需要を把握し、それに対応するキャパシティを確保するプロセスです。
キャパシティ計画では、リソースの割り当てやモニタリングを行い、効率的な運用をめざします。アジャイル手法の活用によって柔軟な対応が可能となります。

(2)サービスデザイン:高品質なITサービスの設計と計画

サービスデザインは、顧客体験のデザインのみならず、それを継続的に提供できる組織や仕組みもデザインすることで、新たな価値を創出する方法論です。
サービスの質と、サービス提供者と顧客の間のインタラクションの改善を目的として、人・インフラ・コミュニケーション、そしてサービスを構成する有形の要素をプランニングし、まとめあげます。

・サービスレベル管理(SLM)によるITパフォーマンスの向上

サービスレベル管理(SLM)は、サービス提供者と利用者とで事前合意したサービスレベルを定常的に監視し、課題や問題点を継続的に改善することで、サービス品質を向上させることを目的とします。
サービスレベル目標値を設定し、定期的にサービスレベルを見直すことが重要です。

・可用性・継続性管理とリスク対策の実践手法

可用性管理は、システムの稼働を維持するための設計・監視・改善を行うプロセスです。一方、継続性管理は災害や緊急事態に備えた広範な対策を含みます。
これらの管理では、コストパフォーマンスやリスク評価が重要です。

(3)サービストランジション:ITサービスの円滑な移行と変更管理

サービストランジションとは、サービスデザインで計画されたサービスを移行し、確実に稼働させることです。
サービスデザインにて設計された新規のITサービス、あるいは変更されたITサービスに対し、中断や移行を原因とした障害などを制御し、本番環境で実際に利用できるようにします。

・変更管理とリリース管理のベストプラクティス

変更管理は、変更のライフサイクルを効率的に管理し、リスクを抑えるプロセスです。リリース管理では、計画的な変更の実施を通じてシステムの安定性を確保します。
これらのプロセスでは、関係者間の連携と自動化の活用が鍵となります。

・構成管理と知識管理によるIT資産の最適化

構成管理は、ITインフラのコンポーネントを追跡・管理するプロセスであり、知識(ナレッジ)管理は組織内の知識を共有し業務効率化をめざします。
これらの管理は、他のサービスマネジメント活動を支援する重要な役割を果たします。

(4)サービスオペレーション:日常的なITサービス運用の効率化

サービスオペレーション は、ユーザー・顧客へ、合意したレベルでのITサービスの提供を効果的に行うための手法をまとめたものです。

・インシデント管理と問題管理の効果的な実践方法

インシデント管理は、計画外の停止や品質低下への対応を行い、問題管理はその根本原因を特定して再発防止を図ります。
これらのプロセスでは、適切なツールを活用すると効果的です。

・要求実現の自動化とセルフサービス化による効率向上

要求実現は、ユーザーからの情報や助言の要求を処理するプロセスです。セルフサービス化により、顧客の利便性を向上させ、効率的な運用を実現します。

(5)継続的サービス改善:ITサービスの質と効率の継続的向上

ITサービスの質と効率を向上させるためには、継続的なサービス改善が不可欠です。

・PDCAサイクルを活用した改善プロセスの実装

PDCAサイクルは、計画、実行、評価、改善を繰り返すことで、業務改善を行うフレームワークです。これにより、継続的なサービス改善が可能となります。

・ITサービスのメトリクス設定と効果測定の方法

メトリクスは、ITサービス管理プロセスの有効性を測定する指標です。KPIを設定し、効率的なリソースモニタリングを行うことで、サービスの質を向上させます。

4.DX時代のITサービスマネジメント最新動向

(1)クラウドサービス管理とマルチクラウド環境におけるITSM

以下では、クラウドネイティブかつマルチクラウド環境が一般的になったDX時代におけるITSMのあり方について解説します。

・クラウドネイティブ時代のサービスレベル管理の変化

クラウドネイティブ環境では、従来のサービスレベル管理(SLM)に加え、マイクロサービスやコンテナ技術を活用したアプリケーション設計が重要です。これにより、各サービスを独立して頻繁にアップデート可能となり、柔軟性と迅速性が向上します。
また、SRE(Site Reliability Engineering)の導入により、SLI(サービスレベル指標)やSLO(サービスレベル目標)の設定が進化し、運用の安定性と効率性が向上しています。

・マルチクラウド環境の統合運用とガバナンス

マルチクラウド環境では、複数のクラウドプロバイダーを統合的に管理し、一貫したガバナンスを適用することが求められます。Azure ArcやVMware Aria Guardrailsなどのツールを活用することで、ポリシーの一貫性を保ちながら、運用の自動化やコスト管理を実現できます。
また、セキュリティやコンプライアンスの強化も重要な課題であり、これらを統合的に管理することで、運用負荷を軽減しつつリスクを最小化できます。

(2)AI・自動化によるITサービスマネジメントの進化

AI・自動化技術の急速な発展により、ITSMも進化しています。

・AIを活用した予測型インシデント対応と問題解決

AIは、過去のデータを分析してインシデントの発生を予測し、事前対応を可能にします。生成AIやAIOps(AI for IT Operations:AIを利用したIT運用)を活用することで、根本原因の特定や迅速な問題解決が実現します。
これにより、インシデントの発生頻度を低減し、システムの安定性を向上させることが可能です。

・チャットボットとバーチャルエージェントによるサービスデスク革新

チャットボットやバーチャルエージェントを導入することで、24時間365日の対応が可能になり、サービスデスクの負荷を軽減し、顧客満足度を向上させることができます。
高度な自然言語処理(NLP)や機械学習(ML)を活用したシステムであれば、複雑な問い合わせにも対応可能です。
また、バーチャルエージェントは顧客の感情や文脈を理解しながら人間に近い対話能力で対応でき、複数のシステムと連携した高度な問題解決まで行えます。

(3)DevOpsとITサービスマネジメントの融合

開発担当と運用担当が緊密に連携して、柔軟かつスピーディーにシステム開発を行う手法であるDevOpsは、ITSMにとって重要な役割を果たします。

・DevOpsの原則とITIL®プロセスの統合アプローチ

DevOpsとITIL®の統合は、アジャイルな開発と安定したサービス提供を両立させる鍵です。DevOpsの文化(コラボレーション、コミュニケーション、共有目標)とITIL®のプロセス(インシデント管理、変更管理など)を組み合わせることで、効率的なITサービスマネジメントを実現します。
DevOpsの継続的デリバリー(CD)や自動化の利点を活用しつつ、ITIL®の変更管理やインシデント管理のプロセスを取り入れることで、効率的なITサービスマネジメントが実現します。

・継続的デリバリーとサービス安定性の両立方法

継続的デリバリーとサービス安定性を両立するには、カナリーデプロイメント(新バージョンのアプリケーションを一部のユーザーにのみ提供する手法)やブルーグリーンデプロイメント(2つの同一の本番環境を用意し、切り替える手法)などのデプロイ手法、継続的モニタリング、オブザーバビリティの強化が重要です。
これにより、リスクを最小化しながら迅速なリリースが可能となります。

5.成功するITサービスマネジメント導入の実践ステップ

(1)ITサービスマネジメント導入前の準備と計画立案

ITサービスマネジメント導入前には、現状分析と目標設定や、ITSMロードマップの策定などを行う必要があります。

・現状分析と目標設定:ITSMアセスメントの実施方法

ITSM導入の第一歩は、現状分析と目標設定です。アセスメントシートを活用し、既存のプロセスや課題を洗い出し、改善点を明確にします。例えば、数十の項目にわたるアセスメントシートを用いて、組織の成熟度や課題を効率的に評価する方法があります。
また、顧客インタビューやデータ分析などを通じて具体的なKPIを設定し、改善効果を測定できるようにすることが重要です。

・ITSMロードマップの策定とステークホルダーの巻き込み

ロードマップは、ITSM導入の戦略や優先順位を明確にする重要なツールです。インシデント管理や変更管理など、どのプロセスをいつ実装するかを示し、ステークホルダーの意見を反映させることで、組織全体の合意を得ることができます。
簡易なロードマップを作成し、議論を通じて詳細を詰めるやり方が効果的です。

(2)ITサービスマネジメント導入時の主要成功要因

ITサービスマネジメントを成功させるためには、経営層のコミットメントとITSM推進体制の構築が不可欠であり、その上で適切なITSMツールを選定する必要があります。

・経営層のコミットメントとITSM推進体制の構築

経営層からの強いコミットメントは、ITSM導入の成功に不可欠です。経営陣が積極的に参加することで、責任の所在が明確になり、メンバーの責任感や連帯感を強めることができます。
また、経営層がITSMの意義を理解し、人員や予算などのリソースを確保して組織全体でITSMを推進する体制を構築することも重要です。

・ITSMツール選定と導入のポイント

ITSMツール選定では、組織の要件を満たす適切なツールを選択することが重要です。ツールを選定する際には、自社のニーズを踏まえつつ、使いやすさ、セルフサービス機能、ビジネスインテリジェンスとレポート機能、自動化機能、構成、カスタマイズ、統合機能などを考慮する必要があります。
無料体験期間のデモやトライアルなどに参加して、実際に使用感を確かめることをおすすめします。

(3)ITサービスマネジメントの定着化と継続的改善

ITサービスマネジメントを組織に定着させ、継続的に改善するためには、教育・訓練や定期的な評価が不可欠です。

・ITSMプロセスの教育・訓練と文化醸成

ITSMを組織に定着させるには、プロセスやツールに関する教育が不可欠です。ITIL®認定資格研修などを活用し、ITSMのベストプラクティスを学ぶことで、従業員のスキル向上を図ります。
また、透明性のあるコミュニケーションを通じて、変化を受け入れる文化を醸成することが重要です。

・メトリクスに基づく定期的な評価と改善サイクル

KPIを設定し、定期的に評価を行うことで、ITSMプロセスの効果を測定します。例えば、サービスのダウンタイムやインシデント数をモニタリングし、改善活動を継続的に実施すると効果的です。
また、継続的改善モデルを活用し、組織の変化に柔軟に対応する仕組みを構築します。

6.ITサービスマネジメント導入の成功事例と効果

(1)業種別ITサービスマネジメント導入事例

以下では、ITサービスマネジメントを導入し成果をあげた事例を業種別にご紹介します。

・製造業:マルチクラウド環境の統合管理による運用コスト30%削減

ある製造業の企業では、自社業務にクラウドサービスを活用する機会が増え、運用が複雑化・煩雑化していました。また、初期構築したまま運用しており、見直しできていないため、ITコストを最適化したいニーズもありました。
そこでITSMを導入し、煩雑化・複雑化するマルチクラウド環境を統合して運用するよう改善したところ、不要なITリソースを省くことができ、運用コストを30%削減できました。

・金融業:サービスデスクのアウトソーシングによる問い合わせ対応時間50%短縮

ある金融関係の企業では、サービスデスク業務において過去の問い合わせと回答、対応メンバー全員の情報がまとめて管理されておらず、満足度(応答率・対応スピード)が上がらないことが課題でした。そこでサービスデスクをアウトソーシングし、1次窓口(ヘルプデスク)と2次窓口(運用支援)を配置し、連携して対応するようにしたところ、作業負荷およびコストを軽減でき、さらに問い合わせの待機時間を50%短縮できました。

・交通業:夜間・休日運用のアウトソーシングによる運用コスト20%削減

交通業界のある企業では、自社の専任体制で運用を行っているため、夜間・休日作業の要員が不足し、運用負担が大きく、本来の業務に手が回らない課題がありました。
そこで、夜間・休日や運用負荷の高い時間帯の作業を必要な分だけアウトソーシングしたところ、夜間・休日などにおける自社内の要員不足を解消できました。また、作業量に応じた支払い形態を採用したことにより、運用コストを20%削減できました。

(2)ITサービスマネジメントの定量的効果と投資対効果

適切なITサービスマネジメントを導入することで、以下の事例のような定量的効果と投資対効果を得ることができます。

・インシデント発行件数80%削減の実現方法

ある製造業界の企業では、自社業務にクラウドサービス活用が増え、運用が複雑化・煩雑化する(例えば、ITリソースの追加に時間がかかる)課題に直面していました。
この課題に対処するため、マルチクラウド環境の導入・運用の知見をもとに、プロセスの標準化・自動化を行い、継続的な運用改善を実施。これにより運用業務の品質が向上し、インシデント発行件数を80%削減できました。

・運用作業対応件数50%削減のアプローチ

上記事例と同様の企業では、個々のサービスで煩雑な運用となっており、サービスレベルもバラバラで悪化している状況でしたが、サービスデスクを設立し、リソース管理やコスト管理を統合して行うことで、サービスレベルの均一化を実現しました。
結果として、SEの運用作業対応件数を50%削減できました。

7.まとめ:
ITサービスマネジメントの未来と企業が取るべきアクション

(1)ITサービスマネジメントの今後の展望と準備すべきこと

ITサービスマネジメント(ITSM)は、人工知能(AI)や機械学習(ML)との統合によって、効率性と戦略的価値の創出に重点が置かれる方向に進んでいます。
今後、企業はこれらの技術革新を積極的に取り入れ、ITSMの高度化を図る必要があります。

・自動化・AI・機械学習がもたらすITSMの変革

ITサービスマネジメントは、AIや機械学習の進化により、業務効率化とサービス品質向上の新たな段階に突入しています。AIは、インシデント管理や問題解決を自動化し、迅速な対応を可能にします。例えば、チャットボットや自動チケットシステムは、ルーティンタスクを効率化し、人的リソースを戦略的な業務に集中させることを支援します。
さらに、機械学習を活用した予測分析により、システム障害の予兆を検知し、ダウンタイムを削減することが可能です。これにより、IT運用の信頼性が向上し、コスト削減にも寄与します。

・ユーザーエクスペリエンス重視のITサービスマネジメントへの進化

ITSMは、単なるIT運用管理から、ユーザーエクスペリエンス(UX)を中心に据えたアプローチへと進化しています。ユーザーの満足度を向上させるため、セルフサービスポータルやチャットボットを導入し、迅速かつ効率的な問題解決を提供することが重要です。
さらに、ITSMの進化は、従業員体験(EX)の向上にも寄与します。柔軟な働き方を支援するツールやプロセスを導入することで、従業員の生産性と満足度を高めることができます。

(2)今すぐできるITサービスマネジメント改善のための第一歩

ITサービスマネジメントを改善するためには、運用診断を活用しながら段階的にアウトソーシングを進めることが推奨されます。

・ITサービスマネジメント自己診断チェックリスト

ITサービスマネジメント改善のための第一歩としては、現在のシステム運用状況を把握し、運用改善へ向けた運用診断を実施することが効果的です。
日立社会情報サービスでは「運用現場診断」と「運用管理診断」を提供しており、長年蓄積したシステム運用ノウハウをもとにしたチェックリストを活用し、診断を実施します。

運用現場診断: 運用スペシャリストが実施する現場観察により、担当者の無意識な行動や環境リスクを抽出し、「見える化」を支援します。
【診断対象】

  • 運用手順書、作業チェックリスト
  • 作業時の行動
  • 作業環境(机上、照明、空調など)

運用管理診断: 運用管理プロセスをITIL®の3つのP(人・プロセス・システム)の観点で診断、スコア化します。
【診断対象】

  • サービス仕様書、運用管理基準書などの基準書
  • 運用管理台帳、運用サービス報告書などの活動記録
  • スキルマップ、育成計画書

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システム運用「OpeLight」サービス

ITシステム運用をトータルサポートする「OpeLightサービス」では、運用診断サービス・運用設計サービス・オンサイト運用サービス・リモート運用サービスの4つのサービスと、クラウド(SaaS)型運用管理システムのOpeLightシステムを提供しています。 これにより、ITシステム運用における課題の見える化、運用体制の最適化、ITシステムの共通化を実施し、コスト低減、安定したシステム運用を実現します。
ITシステム運用のライフサイクル全体をカバーし、お客さまのニーズに応じた適切なサービス・システムで課題解決をサポートします。



資料

当社はシステム運用の課題を解決する豊富なノウハウや導入実績があります。
オリジナルのヒアリングシートをご用意していますので、
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